白井亨(しらいとおる)

~福島県会津若松市 会津若松駅のスイッチバック編~

2023.05.20

みなさんこんにちは。
リンスタ社会科担当の白井です。

スイッチバックという言葉を知っていますか?
鉄のレールの上を鉄の車輪で走行する鉄道は勾配に弱く、急な斜面を行き来するためにさまざまな工夫がなされてきました。その1つがスイッチバックです。まっすぐ行くと登ることができない急な斜面を、ジグザグに折り返しながら登っていくのです。首都圏では箱根の登山電車が有名ですね。下の地図を見てもわかるように、急な斜面を、3回も進行方向を変えながら行き来しています。折り返しの度に、運転士さんと車掌さんが列車の前後を行き来して持ち場を変えていく光景も、この鉄道の名物の1つです。
地図をよく見ると、道路もくねくねと曲がっていますね。ゴムのタイヤで走る自動車は勾配にも強いはずですので、道路がこのようになっていることからも、この場所の急峻さがわかります。

JR磐越西線は、福島県の郡山駅と新潟県の新津駅を結ぶ路線です。途中の会津若松駅では、下の地図のように郡山方面から来た磐越西線の列車が、進行方向を変えて新津方面に進んでいきます。地図を見る限り市街地にある駅で、どう見ても険しい斜面があるとは思えませんが、なぜか折り返して進行方向を変えないと進めないのです。南のほうにも線路が伸びているのでわかりにくいですが、磐越西線のホームは行き止まりになっていて、物理的にも南に進むことはできません。

進行方向が変わるというのは、いろいろと不便なこともありそうですよね。先ほどのように坂を登るという目的があるならともかく、そうでなければ無駄に折り返しをしたくないはずです。会津若松駅がこのようなつくりになっているのは何か理由があるはずです。
そこで今回は、その「?」について、地図を使って考察してみたいと思います。


まず考えられるのは、郡山方面か新津方面のどちらかを、南に向かわせることはできなかったのかということですね。それでは、始めに郡山方面の地形を確認してみましょう。

上の地図の真ん中には猪苗代湖があり、鉄道は湖の北を通っています。会津若松駅から南下し、猪苗代湖の南側を通って郡山駅に向かうことはできないのでしょうか?
地図を見ればはっきりとわかりますね。猪苗代湖と郡山駅の間には山地があり、ここを越えなければいけないのは、北ルートでも南ルートも同じです。ところが、この山地の西側が問題になります。北ルートには猪苗代盆地があり、山もそれほど険しいようには見えません。一方、南ルートを見ると山地が筋のように何本も見えていて、その一部は湖近くまで伸びています。最初に言った通り鉄道は坂道に弱いですから、こちらのルートは何度かの山越えを強いられることになりますね。どうやら、郡山方面には北からのルートを通るしかなさそうです。

次に、新津方面の地形を確認してみましょう。

会津盆地は、会津若松駅の西側に広がっていますので、東側のように山や坂を考慮する必要はなさそうです。だったら、赤い線で示したルートのように、会津若松駅からはそのまま南へ進み、盆地の西のほうから北上すればいいのではないかと思うのです。以前に紹介した只見線は途中の会津坂下附近までこのルートを通っていますし、そのまま会津盆地を北上して現在のルートに合流するのもそれほど困難には見えません。
ところが、このルートを選んだ場合、会津若松市と並ぶこの地域のもう1つの重要都市である喜多方市を通ることができません。会津若松駅から南下して喜多方駅に向かうには、盆地全体をぐるっと迂回する感じになり、かなり距離が延びてしまいそうです。喜多方駅を通るためには、会津若松駅からは北上したほうが良さそうです。やっぱりこの折り返しは必然だったのですね。

もう1つ気になることがあります。
会津若松駅は市街地の北のほうに寄っていて、駅から町の中心部までは少々距離があります。さらに南には、観光地にもなっている会津若松城もありますので、観光客にとってもこの駅の位置は不便ですね。実際に、多くの観光客は、駅からバスに乗って町の中心部やお城に向かっているのです。線路をもう少し南下させて、駅を市街地に近づけることはできなかったのでしょうか?

上の地図を見ると、会津若松駅の南のほうに寺院がたくさんあることがわかります。寺院があるということは、このあたりは古くからの町ということでしょう。おそらく鉄道が通る前から多くの建物があり、多くの人が生活していたのだと思います。南へ向かう線路がこの地域を避けて迂回していることが、この地図からもわかりますよね。線路を南に伸ばして七日町駅や西若松駅のあたりにしたところで、市街地までの距離があることには変わりありません。また、南にすればするほど折り返しの距離は長くなるので、郡山方面から新津方面、あるいは新津方面から郡山方面へ行くのに、より時間がかかることになってしまいます。
いろいろと検証してきましたが、現在の会津若松駅の位置がいちばん理にかなっているようです。きっと昔の人たちも、いろいろと検証しながら決めていったんでしょうね。

会津若松は太平洋戦争中の空襲の被害を免れているので、昔ながらの町並みや建物が数多く残っています。駅から会津若松城に向かう道沿いでも、前回のブログで紹介したクランクや、野口英世ゆかりの建物など、魅力的な街並みを見ることができます。歩いて行くにはちょっと距離がありますが、みなさんがこの街を訪れたときは、駅からすぐにバスに乗らないことをおすすめしておきます。

実は、首都圏にも会津若松駅のような折り返し構造になっている駅があるんですよ。
千葉県にある東武野田線の柏駅、埼玉県にある西武池袋線の飯能駅、そして神奈川県にある小田急江ノ島線の藤沢駅の3つなんですが、それぞれにそれぞれの理由があるようです。もし、お近くにお住まいなら、ぜひその「?」を探ってみてください。

「?」はきっとそこにある
「?」を知ればおもしろい!
みなさんも、身近な「?」を見つけて楽しんでみてください。

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